ラバーガール

 ラバーガールが好きだ。
 頼まれもしないのに勝手に書くほど好きだ。
 ×  ×  ×
  長椅子。
  左腕、包帯に三角布の大水が座っている。
  飛永が足を引きずって来る。
  大水、ずれて、スペースを作った。
飛永「あ、すみません」
  飛永、隣に座った。
飛永「ここ、いつもこんなに混んでるんですか?」
大水「この椅子はまあ一人か二人か……」
飛永「いや、そうじゃなくて」
大水「どきましょうか?(と立ちあがり)」
飛永「違います、違います、どうぞ」
   大水、座った。
飛永「初めて来た病院なんで、それで混んでるなあって」
大水「同業の医者がハラワタ煮えくりかえってます、押すな押すなの大盛況ですよ」
飛永「ああ、そうなんですか」
大水「押さないで!」
飛永「押してはないですけどね」
  大水、飛永の足を見る。
大水「すべり台でやっちゃったんですか?」
飛永「すべり台?違います、草サッカーで、グニっと」
大水「臭いサッカー」
飛永「臭いサッカーじゃないですよ。草野球とかいうでしょ、あの草です。草サッカー」
大水「ふふ。冗談ですよ。臭いとかいうと女子供に受けるんで、あいつらチョロイっすよね」
飛永「ボクは子供じゃないですけどね」
  大水、飛永の顔をじっと見る。
飛永「……女でもないです。ていうか女の人に受けます?臭いとか言うと?」
大水「(芝居して)おじいちゃん、お口が臭い」
飛永「だからそれ受けます?」
大水「おばあちゃーん、おじいいちゃん、お口が臭いの」
飛永「ああ、あなたのおばあちゃんに受けるってことですね」
大水「その祖母も祖父も亡くなりました。もう笑ってくれる人も、お口が臭い人もいなくなってしまいました」
飛永「それはお気の毒ですけど」
  飛永、ラックから週刊誌を取り出す。
大水「こいつ、コミュニケーション独特、ちょっと退散、って思っての週刊誌ですね」
飛永「いや、そういうわけじゃないですけどね」
大水「こいつが外務大臣になって、外交問題交渉したら、日本おしまいじゃね?って、思っての週刊誌ですよね」
飛永「(笑って)そこまでは思わないですよ」
大水「そこまで?」
飛永「いや、いや、そうじゃなくて」
大水「やばいやばい、結構するどいトコもあるじゃん、だったらこいつに日本を任せてみるかって、感じかな?」
飛永「それはまったくないです」
大水「女子供に絶対の強さを持つから文部女性大臣って線もあるな」
飛永「文部はわかりますが女性は?」
大水「女性わかりません?いい匂いがする人たちのことです」
飛永「なるほど、微妙にリアルですね」
大水「ほら、ボク、口の臭いおじいさんと一緒に住んでたから」
飛永「ああ、まさにリアルですね」
  飛永、週刊誌を読もうとして、気づく。
飛永「もしかしてさっきのすべり台って、私を子供だと思ったからですか?」
  大水、じっと見る。
飛永「だから女でもないですけどね」
大水「さっきのはそうじゃないですよ。すべり台はボクと同じかなって思ったんで」
飛永「(大水の見て)それ、すべり台でやったんですか?」
  大水、勢いよく立ちあがり
大水「その老人の手を離せ!その老人の口は臭いぞ!わかった!俺が貴様の口をその老人と同じくらい臭くしてやる!えい!や!たー!って、手を伸ばしてすべったら、着地に失敗して、ボキ!ボキボキボキ!って」
飛永「複雑骨折なんだ」
大水「あれは恥ずかしかった、まあ、誰も見てなかったんで、不幸中の幸いでしたけどね」
飛永「一人でやってたんだ」
大水「その話を坂もっちゃんにしたら、お前、相変わらずだなあって笑われちゃいましたよ」
飛永「相変わらずなんだ」
大水「坂もっちゃんとはお知り合いですか?」
飛永「お知り合いではないですね」
大水「そうですよね、さっき、初めてだって言ってらしたし」
飛永「え?」
大水「坂もっちゃんは先生ですよ。ここの」
飛永「ああ、そうだったんですか。てことは先生のお友達なんですか」
大水「そうです。大学の」
飛永「大学の友達に、すべり台で怪我して相変わらずだなって笑われたわけですね(気づき)大 学?」
大水「ええ、私も医者です。整形外科の。だから最初にヒント出したでしょう。ハラワタ煮えくりかえってるって」
飛永「あれはあなたのことだったんですか?」
大水「あのとき腹をぴくぴくさせてたんですよ。煮えくりかえってるのをあらわすために」
飛永「全然気づきませんでした」
大水「ふふふ。大げさにやりたくなかったんですよ。日本人の表現ってそういうことじゃないでしょう、まあ女子供相手ならそれでもいいかもしれないが」
飛永「ということは整形外科の先生が怪我をして、よその整形外科に来てるってことですか?」
大水「いや、そうではないですね。整形外科の医者である私が、老人をはがいじめする悪の帝王バンバラーに対して、義憤にかられて正義の刃をふるった、結果、日本に平和が訪れ、私は友達の坂もっちゃんの病院に来て、いつまでも変わらない友情を確かめ合ってる、ってとこですかね」
飛永「まあ、主旨は同じだと思いますけど、いや、違うか、全然」
大水「診ましょうか?」
飛永「え?」
大水「医者とばれてしまったからには仕方ない。診ましょう。あなたの足」
飛永「ダメでしょう、ここで別の先生に診てもらうのは」
大水「あっちの椅子に行きます?」
飛永「だから椅子じゃなくて」
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