大島渚

大島渚に二度誉められたことがある。
まずは二度目から。
大学時代に作った自主映画の『バスクリンナイト』を、ぴあフィルムフェスティバルの審査員として、その年のベスト1に選んでくれた。
「このような映画がどこから発想されるのか、私には想像もつかなかった。まぎれもなく誰にも真似しようもない個性を持った作家」
うれしかった。どれだけ自信になったことか。
では一度目。
国鉄東海道線大船駅から乗った私の母は、前に座ったカップルが小山明子と結婚したばかりの新人監督だと気づいた。(母は映画が好きで、小山明子のことはすぐにわかった)すると母の表情を受け取って、小山の方から先に声をかけてくれたらしい。
「かわいい赤ちゃんですね」
母は生まれたばかりの長男を抱いていた。
隣に座っていた新人監督も言った。
「うん。かわいい」
ここでは「誰も真似しようもない個性を持った」赤ちゃんだとは言わなかった。
私もまた言葉を理解しなかったのでうれしいとは思わなかった。
でも今ではうれしい。
一度目も二度目も両方うれしい。
三度目はもうない。