松原始

評判通り、松原始の『カラスの教科書』(雷鳥社 2013)が面白い。担当編集者がイラストも兼ねてる?らしいんだけど(植木ななせ)、とぼけた感じのその絵と、学者のくせにどこまで本気かわからない力の抜けた笑える文章は、おぎやはぎの漫才のようだ。「俺、結婚式の司会がやりたいんだよ」「俺はお前のやりたいことはなんでもやらせてあげたいんだよ、だからやってみな」「イイの?」で始まる、おぎやはぎのネタと同じくらい何回も笑いましたが、たとえばこんなエピソード。松原が観察していると、ハシボソガラスの一家とハシブトガラスの一家が縄張り争いで空中戦になった。といっても闘うのは親鳥同士。ヒナたち3羽とヒナたち3羽は、わけもわからず興奮して飛びまわるだけ。ようやく戦い終わり、ハシブト一家とハシボソ一家はそれぞれ別の場所に離れた。ハシボソはヒナ4羽を連れ、ハシブトはヒナ2羽を連れて。「え?4羽?」驚く松原。だが驚いたのはハシブト一家の親分もだった……。
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カラスって死体を食べる掃除屋でスカベンジャーって言うらしいんですけど、ワタリガラスがオオカミの分布と一致するのは、そのオオカミの食べ残しが目当ての、ニッチな鳥だからかもしれないと松原先生は指摘します。
てことは、人間がどことなくカラスを嫌いなのはその名残かもしれないですね。だって人間だってスカベンジャーだったわけでしょう。ゴミを荒らされるからいけすかん!じゃなくて、太古の昔、ライバルだったからじゃないの?
「そうだよ、お前、仲間だったじゃん」「それは昔のことでしょ、今は進化したし」「どうやって進化したのよ」「大事なのは二足歩行かな」「おれだって二足歩行だよ」「ああ、でも歩くって感じじゃないよね、ぴょんぴょんって感じじゃん」「それじゃダメなの?俺、進化したいよ」「俺はお前のやりたいことはなんでもやらせてあげたいからな、わかった、進化してみな」「イイの?」