木田元

洋服売り場のレジで文句を言ってる男がいた。本人は東宝的態度で不満を表明しているつもりなんだろうが、声もうわずり、攻め方も論理的ではない。とにかく怒っているのだと店中にしらしめたいなら、ここは誠実に東映になって責めるべきだろう。だがそこまでむきだしにはなれず、むしろ応じる店員側の態度に波しぶきのように東映が顔を出す。その様子をそれとなく見ている小市民が私を含めて数人。もちろん我々は松竹だった。
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木田元『なにもかも小林秀雄に教わった』(文春新書・2008)読了。小林秀雄だけでなく若いころの読書遍歴。晶文社のもそうだったけど、木田元の若いころってカッコいいですよね。テキヤからハイデガーだもん。誰にも文句は言わせないぜ。だいたい名前が「キダゲン」。ヤクザ仲間から「キダゲン」って呼ばれてたんでしょうな。「キダゲンって若いのいたろ、今頃なにしてっかな」「あれはテツガク者になったらしいのう」
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やっぱり哲学は東映だな。東宝でも松竹でもないな。