ベネディクト・カンバーバッチ

「ぼくが落としたのは鉄の斧です」
「正直でよろしい。お前にこの正直Tシャツをあげよう」
「……沼臭いですね」
「匂いは落ちるよ、アリエールで洗ってごらん」
寄席文字ででっかく『正直』かあ。浅草で売ってるって感じ」
「逆にお洒落だけどね、ベネディクト・カンバーなんとかも買って行ったけどね」
ベネディクト・カンバーバッチね。え?これ、売ってるヤツ?」
×  ×  ×
高校の友達と久しぶりに飲んだ。
中華。頼んだのは小皿をいくつも楽しめるという酒のつまみコースみたいの。
店員「最後にこぶりのラーメンかトリフォーをお選びいただけますが」
とっさに意味がとれなかった。
私「トリフォー?あのトリフォー?」
店員「もしやフランソワ・トリフォーを頭に思い浮かびましたか?彼は亡くなりました。最後に出されるのは、フランスではなくフランス統治領だったベトナムの、アメリカの夜ではなくグッドモーニングベトナムの、ヌーヴェルバーグではなくてヌードルフォーです、それの鶏のヤツ」
私「ああ、フォーか。鶏のフォーか。しかし流れるような返しですね」
店員「ありがとうございます。で、どちらになさいますか?」
私「ラーメン」