バカリズム②

バカリズムが好きだ。
頼まれたわけでもないのに勝手に書くほど好きだ。
紙芝居「桃太郎と須藤宏」②
(①からお読みください)
(いつものあの絵を見せながら)
×  ×  ×
桃太郎と家来の犬と猿とキジと須藤宏(40歳)が鬼退治に行ってから一年。
桃太郎の家に須藤宏が訪ねてきました。
「ご無沙汰してます」
須藤宏が桃太郎に土産を差し出します。
「みたらし団子です、いつもきびだんごじゃ飽きるでしょう」
「いや、お婆さん、亡くなったんだ」
「え?」
須藤宏はお婆さんに線香をあげました。
×  ×  ×
「しかし本当に御無沙汰してます」
須藤宏がまた言いました。
その声のトーンから、桃太郎は金の話かなと思いました。
でもそうではありませんでした。
「そろそろ鬼が島に行きませんか?」
「どうして?もう行ったじゃん」
「宝物が溜まってるころですよ」
「彼らは改心したんだよ」
「モモさん、あんた、甘いよ。人間ってのはそういうものじゃないよ」
「彼らは人間じゃないよ」
×  ×  ×
でも一年ぶりに鬼たちと会って、旧交を温めるのも悪くないか?
桃太郎はそう思いました。
「よし行くか。帰りは温泉で一泊してもいいし」
犬が来ました。
猿も来ました。
キジも来ました。
須藤宏も来ました。堀田水江(52歳)と一緒に。
「ほら、みんなに挨拶しないと」
「水江です。前橋の駅前でスナック喜望峰をやってます」
「ふふふ、徒歩25分は駅前って言わねーの」
×  ×  ×
身長180センチ、派手な化粧の外見に関わらず、堀田水江はとても気を使う女性でした。
「犬さんってお国はどちらなんですか?」
「猿さんって本当に毛深いんですね」
「キジさん、大変でしょう、お手入れ、これだけきれいな羽根を維持するのは」
「モモさんってやっぱり桃が好きなの?」
そんな堀田水江に須藤宏はいつも上から目線でいばっていました。
「ほら、お茶出すんだったら、先にテーブル拭いてからだろ!」
犬も猿もキジも桃太郎も「すげえ感じ悪いな」と思いました。
×  ×  ×
鬼が島に着きました。
桃太郎たちが来たと知って鬼たちもびっくり!
「来るんだったら連絡くれればいいのに!船出したのに!」
桃太郎が言いました。
「サプライズってヤツ?」
すぐさま宴会になりました。
飲んでは食べ、踊っては飲み、それはそれは楽しい時間です。
三時間ほどして、酔っぱらって寝る者も出てくるころ、あちこちでねっちりした話題になりました。
「失敗があって初めて成長出来るのでは」「大事なのは日常だ」「ときには優しさよりも厳しさが必要」「人生とは何か?」「鬼とは何か?」
桃太郎も鬼の総大将としんみり酒を酌み交わしていました。
今彼らは半農半漁の生活をしていると言います。
「でも、畑のほうはなかなか難しくて。できるだけ自然農法でやろうと思ってるんですけどね」
×  ×  ×
そのころ須藤宏は堀田水江に抱きついていました。
「いいじゃないか」
「やめてよ、こんなときに」
「こんなときってどんなときだよ?惚れた男が惚れた女にチューするとき?」
とたん、堀田水江の表情が変わりました。
「てめえのそういうとこが嫌いなんだよ!」
そういうとこってどこでしょうか?
女心はよくわかりませんが、とにかく堀田水江はそう言うと、すぐさま須藤宏の頬を平手打ちしたのです。
一発二発三発四発、七十二発まで叩いたところで桃太郎に止められました。
「もうやめなさい。それ以上やると死んでしまう」
×  ×  ×
「また来て下さい。これ少しですけど」
「こんなにいいのかい?ていうか持ちきれないよ」
お土産にと用意してくれたたくさんの大根やキュウリやワカメやサザエを見て、桃太郎が言いました。
鬼の総大将が言いました。
「道中、重いかもしれないですけど、でもそれが友情の証って奴ですから」
×  ×  ×
帰りは予定通り、温泉です。
「犬と猿とキジ?それはちょっと」
露天風呂は断られたので、一時間貸し切りの家族風呂にみんなで入りました。
「楽しかった」犬が言いました。
「楽しかった」猿が言いました。
「楽しかった」キジが言いました。
「楽しかった」桃太郎が言いました。
「楽しかった」堀田水江が言いました。
桃太郎が堀田水江に言いました。
「水江さんって着痩せするんですね」
「イヤですよ、モモさんたら!」
×  ×  ×
部屋に戻ると、須藤宏はまだ寝ていました。
桃太郎が言いました。
「いいお湯だったよ。入ってくれば?傷にも効くって書いてあったよ」
須藤宏が目だけをあけて言いました。
「みんなで入ったんですか?」
「そうだよ」
「水江も一緒に?」
「そうだよ」
「……」
おわり。
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