草野大悟

草野大悟
『同志!!僕に冷たいビールをくれ』(講談社 1980)
副題に「天平の甍」中国ロケはみだし記。
タイトルがいい。同志に「トンヂイ」のルビ。
表紙もいい。装丁は平野甲賀。表題の書き文字は赤で、これはなんていうのかな、毛沢東語録の古い版の表紙で見る字体といえば伝わるだろうか?
×  ×  ×
上海の空は済み切っていたわけではない。
「あれはゴビ砂漠から飛んでくる黄砂だよ」
「いえ、なんと言っても大都会だからやっぱスモッグだよ」
「両方混ざってるんだろ」
「まあほら、諺にもあるだろう。他人の空は黄色い」
×  ×  ×
こんな語り口で、1979年の中国ロケでの日々が語られる。
便所で大声が聞こえるので、落し物でもして騒いでいるのかと思って見に行ったら、5,6コの穴にキンカクシもトビラもない、ケツ丸見えのその場所で、中年の親父二人がウンコをしながらケンカをしていた。そいつらの匂いを嗅ぎながら草野は思う。
「ウンコしながらケンカするな、クソ!」
あるいは日本の友達に土産でコンドームを買う。ためしにひとつ開けてみると、それはとても大きい。中国はこれが普通なのか?それとも日本人が小さいのか?いや、俺が小さいのか?
あるいは現地の少年と釣り友達になって毎日遊んでいたが、とうとう明日、次のロケ地へ移動する。少年が草野に言う。
「明天?」(明日は?)
「アー、俺は、明天、我、上海」
「おう、トイトイ(わかった)」
「同志!再見!」
「再見」
俺は沼田(※曜一のこと)さんにもらった釣り棹を彼に渡した。
「これで釣ってくれ、これやるよ」
と彼を見ると夕日の中につっ立って泣いていた。
同志よ、泣くな、俺も目が熱くなる。
×  ×  ×
読了後、ビールが飲みたくなります。
いや、ちがう。読みながら飲みたくなる。