吉田大八②

桐島、部活やめるってよ』DVDが来た。
(前稿を先に読んで下さい)

桐島、部活やめて、どうなったのか?
桐島、部活やめて、映画部は結束が強まった。屋上での撮影は後日できるし、ちっとはあのときのフィルムも使えるかもしれん。隕石も「この際だからこのビロンビロン取って新しいの作りなおそうか」ってことになったに違いない。武ちゃんはああいう人物だから、あんまり変わらないが、しかしいかに自分が大暴れしたか武勇伝は語るだろう。50歳の同窓会でも。
桐島、部活やめて、吹奏楽部の部長も気持ちを切り替えることができた(桐島がやめてなかったらまだあの場所でのバスケは続いていただろうから)。後輩のあの子とますます気持ちが繋がって、引退した後は彼女に吹奏楽部を任せるのかもしれない。それとも野球部のキャプテンのようにドラフトまではやめないのか?「はあ?」今、部長の声が聞こえた。ごめん。
後輩はときどきあの屋上で練習するだろう。別に誰かを見るためではなく、あそこが「寒さを感じることができる気持ちがよい」場所だから。
桐島、部活辞めて、バトミントン部の実果はかすみともうひとつ仲良くなるだろう。この映画の不在は桐島と実果の亡き姉だが、そして亡姉は家族という立ち位置ではなくて、越えられない先輩という、風助と桐島とまったく同じ構造にあるわけだが、ひとつだけ風助と実果が違うのは、実果には風助がいた。そしてまた風助のおかげで、実果はかすみともっと結びつく。いやいや、そうではない。実果がかすみの二の腕を触った時点で(ここもまた素敵なシーンだ)、かすみの腕が平手打ちすることは約束されていた。
その風助。桐島、部活辞めて、風助は不幸か?いや、彼は実果の存在に気づいた。「行かなくていいよ」のあのセリフで心響かない男がいるか。つきあうかつきあわないかは別にして、彼には自分を見てくれる人がいる。それにゴリラも。
ゴリラ。私はゴリラが嫌いじゃない。あの屋上での経験はゴリラを悪い方には向かわせない。バレー部にとって憑き物が落ちた体験ではないのか。だからゴリラは風助の味方となるだろう。
では宏樹は?
その前に、ほかの人をやろう。
まずは梨紗。正直私は梨紗の魅力がわからなかった。桐島の魅力を知るにはその恋人梨紗を見ればいいわけだが、どうしてもわからなかった(もう一度見れば発見出来るか)。そのため桐島の魅力もわからない。だから桐島がどうなったかも私は興味がない。
梨紗は桐島が部活をやめたことではなく、それを知らなかったことで、苦しみ混乱した。それはわかるが、とは言っても、沙奈が「一緒に行こうか」と言うのを冷たくあしらうのは「女子ってどうよ」と男子として思うし、ミスタードーナツでのあの態度もむかつく。もちろん私がきれいな人とお付き合いしたことがないから、最初からそういう目で見てしまうのかもしれないが、だが一つ指摘したいのは、最初にゾンビに食われるのは梨紗だということだ。これはもう間違いなく「彼女が友達思いでないから」食われたのだ。だってゾンビって、仲間を、つまり友達を増やすために食うんだろ?
あと、一つ聞きたいのだが、あれは誰が編集したんだ?前田?前田じゃないよな?てことはやっぱりロメロ?
沙奈。彼女は大丈夫。平手打ちされても大丈夫。つまり変わらない。
友弘。帰宅部のかすみとつきあってない方。今回DVDを見て気づいたんだが、パーマでミサンガの竜汰に「だったら入部すれば?バスケ部」と言われて、実に哀しい顔(すごく良い顔)をした。あれってなんかあるな。それから友弘の言動をチェックし直すと、うーん、やっぱりこれはなにかある。だからちょっと心配だ。
で、宏樹。
宏樹は野球部に戻るのか?私は戻ると思う。それは屋上の前田のせいでもあるが、あわせてキャプテンの存在だろう。たとえ個人種目のスポーツでも、大事なのは人だ。友達だ。 仲間だってゾンビも言ってる。まして野球部はチームプレーだ。あんだけ乞われて行かないはずがない。この映画は一つの原因が一つの結果を産まないことをよくわかっているから、屋上の前田だけ、キャプテンだけなら、私も宏樹が野球部に戻ると考えないが、ダブルで戻れと言ってる。だいたい宏樹は野球が好きなのだから。「今日は寒いな、そうでもないか」と嘘のつけないキャプテンに、もう宏樹も嘘はつけないだろう。ここでまた質問、ラスト、宏樹の見るあの練習風景のなかにキャプテンはいるの?どこ?
そうだ。ラストの練習風景が出たからちょっと書いておく。前稿で(読んでね)屋上は「見るのを見るシーン」だと書いた。ではそのあとは?そう、彼は見た。野球を。屋上で見た映画部大好物の夕日のオレンジではなくて、野球部大好物の夜間照明のオレンジ色の中の選手たちを。このとき宏樹の顔は見えない。観客は宏樹の顔が見れず、宏樹の見る野球を見るしかない。となると私が戻ると考えるのは当然だ。
そして前田だ。
桐島が部活をやめて、前田はどうなったか。
前田は宏樹と友達になる。
屋上で前田は、正直に自分の気持ちを宏樹に言った。映画監督は無理、と。そして「大丈夫?」と宏樹のことを気づかった。これは友達以外の何物でもない。「それは無理があるべ。だったら水曜日、宏樹は前田と一緒に帰るのか?マクド寄って行く?寄ってかないべ、そうだべ」べーべーうるさい。
最後、宏樹が屋上を去って行く時、その背中を前田はカメラを通して見る。あれに私は違和感があった。宏樹が傷ついてるのを前田はわかったのに、なぜカメラを向けるんだろう。だが3度目を見てわかった。あれは映画監督の目だった。前田もその直前に言っている。宏樹がカッコイイと。そう、去って行くあの瞬間、前田は宏樹を『生徒会・オブ・デッド』に出そうと決めた。当然だ。登場人物は映画部が演じてるから変なヤツばかりじゃないか。あれでは画面が締らない。メリハリがない。だから火曜日の夜、前田は脚本を書き直した。そして水曜日、宏樹に言った。
「悪いんだけど、ちょっと映画に出てくれないかな」
宏樹は驚き、断るだろう。だが屋上で自信を持った前田はぐいぐい押す。しかしその答えは。宏樹は言う。「俺、野球部、あるから」
宏樹は映画出演を断った。断られたから友達じゃないのか。違う。断られても許すのが友達だ。
×  ×  ×
良い映画だ。
×  ×  ×
この映画を見ると誰かと話したくなる。誰かは田舎のお袋ではない。「お袋、映画見たんだよ」「あら、お母さんも見たわ、レ、ミゼラブル」
誰かはもちろん親でも教師でもなく、友達だ。
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