倉阪鬼一郎

倉阪鬼一郎『怖い俳句』(幻冬舎新書 2012)
電車の中で読む。期待にたがわぬ面白さ。
打ち合わせを終え、帰りの電車でも読む。
ホームから夕暮れが見えた。ちょっと嫌な予感。電車に乗り込み、暗くなれば、今度は流れる車窓から黄色い月だ。まずいと思う。思って視線を車内にはずす。仕事を終えてだがまだ緊張が残る顔がいくつもある。いやいやもっとまずい。あのばばあ死ね死ねよ給湯器の隅でひしゃげて死ねよと心に念じているのかもしれない。いやすでにそのマニキュアの塗ったやけに細長い指で首を絞めてきたのか?今から帰る家には押し入れに閉じ込めた6歳の弟が待っているだろうに。
しかしなによりも「偶然」と「同じ」が怖い。偶然同じ電車車両に乗りあわせていることが怖い。だからと言って全員次の駅で降りられたらもっと怖い。
私は読むのをやめた。手にしてるのも嫌でカバンにしまった。
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本当にたくさん心に残った。
あえて四つだけ挙げる。
友よ我は片腕すでに鬼となりぬ(伊丹三樹彦)
黄の青の雨傘誰から死ぬ(林田紀音夫)
帰り花鶴折るうちに折り殺す(赤尾兜子)
俳人に詳しくないが、心が響いた句の作者は、怖い句以外も優れているんだろう。安部青蛙はとくに気にいった。
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解説もまた良い。ですますで語るのも計算と見た。