天竺鼠

天竺鼠が好きだ。頼まれてもいないのに勝手に書くほど好きだ。
×  ×  ×
コント「家庭訪問」。
川原「ピンポン、シャーン。ピンポン、シャーン」
  瀬下、来る。
瀬下「あ、先生」
川原「家庭の訪問にやって来ました」
瀬下「今、チャイムおかしくありませんでしたか?」
川原「はい、多少ですね、ワタクシ感を出したいと思いまして、ピンポンのあとにシャーンを足してみました。草原のさわやかな風ということをお感じいただき、さらに逃げるシマウマ、追うチータも感じていただき、逃げ切ったシマウマ、悔しがるチータ、それを見て笑う私を感じていただければと思っての創意工夫です」
瀬下「ピンポン、シャーンでですか?」
川原「吹いた!さわやかな風が吹いた!だがそこにはなま暖かい血の匂いが!シマウマがチータにやられた!でも仕方ない!それもまた自然の摂理!」
瀬下「?」
川原「?」
瀬下「どうぞ、中へ」
川原「よそさまのお宅というのはなぜか独特で微妙な匂いがしますが、奥さん、こちらもご多分にもれることなく、ふふふ、匂いますなあ」
瀬下「……」
川原「奥さん、失礼なことを言う奴だなという顔をしてらっしゃいますが」
瀬下「……ごめんなさい」
川原「なぜ謝るんです!私は今確実に失礼なことを言ったんですよ!もっと自分に自信を持って!そして外に出るときはおしゃれして!春だったら春コートで!」
瀬下「?」
川原「?」
瀬下「たかしは学校ではどうでしょうか?」
川原「友達も多く勉強も出来る、たいへん優秀な生徒です。もし優秀でないと言う人間がいたら、なぜそんなことを言うのか!と三日三晩つけまわして、後頭部のこころあたりを人差し指でピンピンしたいぐらい優秀です。あ、違う。ぴんぴんシャーン、ぴんぴんシャーン、ここでもワタクシ感を出して行かないと」
瀬下「?」
川原「だから奥さん、自信を持って!バイキングでは野菜はいいからローストビーフだけを食べて!金魚を飼うならいっそサメにして!」
瀬下「先生、でもね、たかしは家では親に口応えもしますし、部屋もいくら言っても片付けないし、夜も遅くまで起きていて」
川原「家のことは知ったこっちゃありません。家でたとえ何が起ころうと、私は教室のことだけを担当してお給料をいただいております」
瀬下「でもですね、先生」
川原「聞きたくない!一つも聞きたくない!たとえ、この家で殺人事件が起ころうと、それが京都祇園殺人事件だろうと、出雲縁結び殺人事件だろうと、聞きたくないものは聞きたくない!それ以上言うと、奥さん、私は旅に出ますよ!私は一人で旅に出る!パスポートは持ってないから国内旅行に!」
瀬下「あの、先生」
川原「行きますか?奥さんも一緒に?国内ですよ!和歌山あたりですよ!それでもいいんですか?」
瀬下「そうじゃなくて、さっきから気になることがあるんですけど」
川原「形勢逆転を狙っているのかな。そうなのかな。いいでしょう。全部受け止めましょう。言いなさい!奥さん、言ってみなさい!言え!今すぐ言うんだ!」
瀬下「さっきから私のこと奥さんって呼んでますけど、普通はたかしくんのお母さんじゃないんですか?」
川原「これは大変失礼しました」
瀬下「いえ」
川原「でもね、一つだけ釈明させていただくと、私が言うんじゃない。奥さん。あなたが言わせるんですよ」
瀬下「?」
川原「この答えに満足ですか?満足でしたなら帰ります。今からバスに乗ると南紀白浜は何時に着くかな。南紀白浜行きのバスの時刻表はありますか?」
瀬下「ないです」
川原「そうですか?捜してもいないのにわかるのかな?」
瀬下「自信があります!」
川原「そうです!それですよ!その言葉を奥さんの口から聞きたかった!いや、違う!たかしくんのお母さんから聞きたかった!」
おわり。