北杜夫

「おほほほほほ」と笑う人って実在するんだろうか。
コントでなくアニメでなく、現実に戸籍を持つ人で「おほほほほ」と笑う人物、あなたの近所にいるだろうか。もちろん木の股でなく母の股から生まれた……。いや、そうではない。そういう方は股からではなく帝王切開で腹からの可能性がある。訂正しよう。腹も含む。
もしいないとして、だったらあれの始まりはなんだろう。森繁の社長シリーズだろうか。貸し本時代のバレエ漫画だろうか。ここでも手塚治虫夏目漱石が出てくるのか。それとも狂言の「くっさめ」のように昔からの芝居の記号なのか。
やはり前提がまちがってるのか。西欧では普通に実在するのか。高貴な人が集まる場所であちらこちらで聞こえるのか?おほほほ。おほほほ。ほほほほほ。おほほほほほほほほほほほほ。ならば起源をたどればロイヤルおほほなのかもしれない。
関係ないが、今突然、小学校時代の友人衣笠くんのことを思い出した。彼は「へへら、へーらーへー。へへら、へーらーへー」と笑う。初めて聞いたときは私を笑わそうとしてるのかと思った。二度目に、人を笑わそうとしてるのではなく自分が笑っているのだとわかり、三度目にはとにかくどうでもいいからこの笑いを聞きたいと思わされた。四度、五度、百度を望んで、私は彼を笑わせる努力をした。そのせいで今の私があるのかもしれない。
音信はずっとない。彼は今でも「へへら、へーらーへー。へへらへーらーへー」と笑っているのだろうか。うしろシティを見て。
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手塚治虫対談集1』(手塚漫画全集別巻 講談社 1996)を読んでたら、北杜夫との対談もあるんだけど(1977年の「女性自身」初出)、この北杜夫がちっと変。遅刻して、その理由を手塚に聞かれ、「女と会ってて遅れた」と平気で言う。そしてたとえばこんな質問を手塚にする。「あの、いつも帽子かぶってらっしゃるのはどうなんですか?これはマンガ家だからですか?それとも、頭の毛が薄くなったからですか?」(手塚は「頭の毛を薄くなったのを隠すためじゃなくて、帽子をかぶってたら、薄くなったんです」と答えてる)。コレはもしや躁の時代かなと思ったら、案の定そうだった(ふふふ、躁だった、すまん)。「実は今度億単位の借金を作った」と言うし「今、原子核の研究をしてる」とか言う。そして最後には自分から「ええ、実り豊かな躁病なんです」と。
今、ウィキを見ました。このときの躁病時代が出てた。うわあ。金使いすぎて、自己破産してるじゃん。そしてこんな記述も。「生活費を稼ぐ手段として女性週刊誌で芸能人を相手にたびたび対談をおこなった」。てことはこの対談自体が躁の産物だったんだ。
ちなみにその前のうつ病期のことも手塚の発言で出てくる。「何年か前にテレビに出たとき、北さんうつむいちゃってなんにも言わないんだ」「あ、手塚さんとテレビ出たことあるんですか?」「いや、あるんですよ」「忘れちゃったなあ」「ああ、ひどい!」「どんな番組でした?」「対談です」