小宮輝之

お前が猿を見るとき、猿もまたお前を見ている……というとなんか格言ぽいけど、哀しいかな猿はまずこちらを見ない。
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つい去年まで園長をしてた小宮輝之の『昔々の上野動物園、絵はがき物語』(求龍堂 2012)を読む。いろいろ面白いんですが、お猿の電車の話をここでは書こうかな。お猿の電車は昭和49年に動物保護管理法に違反するということで廃止になるんですが、運転手役の猿は群れの離れ猿を使ったのでむしろ動物愛護だったのに、というのはどこかで読みました。このことはこの本には出てきません。そうじゃなくて面白かったのは初期の話。私はお猿の電車に乗ったわけではないですが、あくまで猿が運転席にいるだけだと想像していました。事実後半はそうだったようです。だって危ないですものね。ところが戦後すぐの初代は本当に猿が運転してたと言うんです。ハンドルを引くと電源が入って電車が動くようになる仕組みだった。うーん。これはすごい。で、ここからは、『もうひとつの上野動物園史』古賀忠道からの孫引きになりますが、さらにますます面白い。「人気者の(運転手の)チーちゃんはお客さんからキャラメルをもらうたびにハンドルから手を離すので電車が止まってしまう。そのたびに(飼育係が)叱っていたら、チーちゃんは足でハンドルを握るようになった」。