矢追純一

「しずかちゃん」「きゃー、のびちょろりさんのエッチ!」「のびちょろりってなに?」
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夕べ昔からの友達Gさんに会った。(イニシャルではなくて、Gさんとういのが小学校からのニックネーム)。彼は普段はシンガポールに住んでいる。来年は外国生活のほうが日本にいた時間を超えるという。その重みを感じるだけの精悍な顔になった彼と、例によって中学のときのバカ話をした。
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中学のころ、円盤とかUFOとか宇宙人が流行った。そういうのを友達のジュンジは真面目に信じていた。「この雲の脇のこれ、これは間違いなくUFO」と言い張る自分で撮った写真を彼は何枚も持っていた。
ある日の昼休み、私は彼に言った。「昨日変な人を見た。歩き方がぎこちないのでなんだろうと思ったら、洋服が虹色に光っている。手にはピーピーいう金属製の箱があり、耳も尖っていた」
「またまあちゃんのおふざけが始まった」とジュンジは言わなかった。「目撃した場所を詳しく教えてくれ」と聞く。「見た場所?」「そう目撃した場所」ジュンジは目撃という言葉に再度言いなおした。私は言った。「××の森」「ああ!あそこはある意味とても特異な場所なんだよね」「なにが特異?」とは聞かず「へえそうなんだ」と相槌を返した。
そのときGさんが特有の一段高いテンションで口をはさんだ。「まあちゃんも見たんですか!私もですよ!」(彼はこういうしゃべり方をする)「あれは変でしたね。とにかく歩き方がきっこりかっこりで、箱もカーピーカーピーで」ジュンジが笑った。「なんだよ、Gさんも見たのかよ、これはもう間違いないじゃん」
「そのあと20分後ぐらいですかね、あの森からなにかが飛んで行くのを見たのは」Gさんが言った。まだ続けるつもりなのか、ならば私も援護せんと足した。「Gさんも見たんだ。俺も見たよ。あの服と同じ感じの色だったなあ。ジグザクに飛んで行った。すぐ消えたけど」
ジュンジが小難しい顔で言った。「行くべきだな、そこ、まあちゃん、今日の放課後ヒマ?」「ごめん、忙しい」「Gさんは?」「行きましょう!ご案内しますよ!」
翌朝、ジュンジが登校してくるまえに、私はGさんに聞いた。「昨日どうだった?」「行ってきましたよ。二人で森に。そしたらいい具合に、ちょっとした穴があったんですよ。それでこれはもしや着陸のって言ったら、ジュンジ、その穴の写真を撮りだしたんです、いろんな角度から何枚も何枚も」
中学生はバカだ。みんなバカだ。いや、ジュンジだけバカなのか?